金子 信博 KANEKO Nobuhiro

2016

 
 

土壌の生物多様性を取り戻そう!

多くの土壌生態学研究者は,土壌をこのように考えています.熱帯までわざわざ行かなくても,私たちの足下に多様な動物が生息しています.地上の森や草原と比較すると土壌は3次元のなかの構造物(鉱物や有機物)の部分が多く,空気の部分が少なく,相対湿度が常に100%に近いなど,体の小さな動物や微生物にとってとても好適な生息環境となっています.
 私は,土壌動物群集の多様性を明らかにし,さらに土壌動物によって窒素や炭素などといった生物に重要な元素がどのように土壌中で動き,植物の成長や多様性と関係しているかを研究しています.主な調査地は,北大苫小牧研究林から,茨城大学阿見農場,八ヶ岳山麓と筑波大学八ヶ岳演習林,琉球大与那演習林まで全国の主な生態系を対象として国内の多くの研究機関と共同研究をしています.また,2009年からインドネシア・ランプン大学との共同研究を実施しています.
 大学院生と取り組んでいる現在の具体的な研究テーマは,次のようなものです.

1.キシャヤスデの生態系機能:8年に一度成虫が群遊する八ヶ岳のキシャヤスデ個体群を用いて,土壌動物の活動が窒素の無機化を通してカラマツの成長に与える影響を野外観測と操作実験,実験室での解析を組みあわせて解明しています.2000年と2008年に成虫が出現したイベントの観測で,森林土壌への影響がわかってきました.2016年の成虫出現に向けて、さらに研究を続けます.

2.ミミズ類の生態学的特性:日本のミミズはアジアに分布の中心をもつフトミミズ科がほとんどです.野外での生態は,安定同位体比を用いて生活型を区分する日本で最初の結果を得ることができました.操作実験と飼育により、窒素やリンの無機化、耐水性団粒の形成に果たす役割を解明しています.自然農とよばれる不耕起・草生栽培の畑地土壌の改善、維持にミミズが欠かせないことがわかってきました。

3.土壌動物と土壌微生物の相互作用:土壌に生息しているトビムシやササラダニといった小型節足動物や線虫の仲間は,落葉を直接食べて利用するだけではなく,落葉などに付着している微生物の働きを利用しています.一方,ミミズやシロアリ,ババヤスデの仲間などは,土壌と土壌に含まれる有機物を微生物とともに食べ,微生物の生活環境ごと変化させています.土壌動物の働きは微生物を通して有機物分解や,土壌から放出されるガスの動きを変えています.微生物の遺伝子解析や生化学的な方法を改良し、動物が土壌微生物に与える影響を定量化しています.

4.土壌への炭素の取り込み:地球全体の土壌中の炭素量は、大気中の炭素量の2倍より多いと考えられています.植生の違いや土地利用によって土壌に蓄えられている炭素量は大きく異なります.「土壌動物は有機物の分解を促進するので、土壌に炭素を貯めないで,むしろ大気中への放出を促進する」と考えられがちですが,ミミズやヤスデの糞中の炭素は長い時間にわたって土壌中に安定的に団粒として存在し,土壌中の炭素量を高める場合もあります.土壌の生物群集と土壌への炭素の取り込み速度は,地球環境問題に直結するホットな研究分野です.

5.植物-土壌生物の相互系の解析:土壌動物や微生物の種多様性が物質循環や土壌構造といった生態系機能をどのように支えるのでしょうか?1から4までで紹介した研究成果を使って,生態学的な群集の多様性と機能の関係を考えます.このような問題を考える上で土壌生態系は好適な研究対象です.土壌を採取することでほぼすべての動物を捕獲することができ,サイズが小さいのであまり大掛かりな装置を使うことなく,多様性を明らかにできます.さらに土壌生物群集の活動はそこに生えている植物の活動と物質循環を通して結びつけることができます.

6.土壌汚染の生態系影響:日本では「土壌汚染対策法」により,都市の重大な土壌汚染に対して人への健康リスクを軽減する措置がとられていますが,生態系への影響はうまく評価されていません.トビムシやシマミミズ、水生ミミズを用いて,化学物質の生態毒性を評価しています.また,2003年度から「土壌エコトロン」という実験施設を建設し,環境を制御した上で,汚染物質などの負荷が植物-土壌生物の相互作用系に及ぼす影響を調べています.福島第一原子力発電所事故による放射能汚染に関しては、国内やロシアの研究者と協力して土壌生態系への影響を調べるとともに、生物の働きを利用した森林土壌の除染方法を研究しています.

  1. 7. 土壌団粒を指標とする土壌の生態学的評価:自然の土壌はさまざまな生物活動によって構造が変わります.特に団粒は生物が作り出す土壌の重要な構造です.畑地の不耕起栽培は、土壌生物が十分生活すると団粒構造が発達して,土壌炭素が増加したり、温室効果ガスの排出が低下します.森林伐採の際に土壌団粒を破壊すると,その後の植生回復が遅くなり,土壌炭素が減少します。生物が作り出した団粒が土壌表層にどれくらいあるかが持続可能な土地利用の指標として有力であると考え,森林と畑地(不耕起草生)の調査地を国内と,インドネシアに作って調べています.不耕起・草生栽培は、土壌の生物多様性を保ち、その働きで持続可能な生物生産を達成するシステムであることがわかってきました。

 土壌の生態学研究を進めることが,地球環境問題や生物の多様性仮説に重要なデータを提供するということは,あまり知られていません.このような研究には生態学全般にわたる広い知識と,前例にとらわれない新鮮なアイデアが重要です.パイオニアとしての野心にあふれた学生諸君と研究できることを楽しみにしています.


JT生命誌館「めぐる」の記事リンク

大学広報の記事「YNUの環境リスクマネジメント<特別対談>」持田幸良・松田裕之・金子信博

    YNUインタビュー.pdf


土壌生態学研究室の成果

我々は土壌生態系の研究を通して次のことを明らかにした。


1)生物多様性と落葉分解の関係

     落葉の多様性を高めると土壌動物の多様性が高まり、分解が速くなる(Salamanca et al 1996など)


2)土壌の窒素循環は動物が促進している

 ヤスデ、ミミズ、トビムシを用いた実験室、小生態系、野外観測 (Kaneda, Hashimoto, Toyota, Fujimaki, Kamitaniなど)


3)重金属による土壌汚染の生態影響

     ミミズによる生物濃縮、微生物群集の変化(Kamitani, Fujiiなど)

     

4)水田除草剤の生態リスク

     有機農業水田は7種類の水生ミミズが生息(Yachi et al., 2011)

    有機物分解や土壌攪乱に重要(Yokota & Kaneko, 2002)

     PCPにより水生ミミズ2種が生息できなくなっていた時代に、水生ミミズによる雑草抑制、メタンガス抑制効果を失っていた。

     

5)有機+不耕起農法によるメタンガス発生抑制

     1平方メートルに1万個体(普通の値)で、メタンガスは半減できる(Mitra)


6)有機+不耕起農法による炭素隔離

     年間40g/m2という速い速度で炭素が集積し、土壌環境がよくなる

     ミミズの糞が耐水性団粒となり、土壌を改善する(Arai et al., 2012, Kawaguchi et al., 2011)

    

7)有機+不耕起農法による多様性維持

     慣行農業で失われていた土壌生物多様性を回復し、機能を利用できる

     ミミズ(Minamiya)、土壌小型節足動物(Tsuzura)、糸状菌(Miura et al., 2012)


8)団粒保全

     森林でも農地でも耐水性団粒はミミズが作っており、団粒を保全することが、土壌保全のガイドになる。


9)森林放射性セシウム除染方法の提案

     糸状菌+ウッドチップで10%程度の除去が可能(特許取得済み)



これらの成果を生かして、次世代の持続可能な自然資源管理に貢献したいと考えています。




Copyright 2007-2016, Soil Ecology Research Group, YOKOHAMA NATIONAL UNIVERSITY

 

Research Theme

Soil Biodiversity and Functioning

土壌生物の多様性と機能

横浜国立大学

大学院環境情報研究院

土壌生態学研究室

教授 

インドネシア・ランプン大学との共同研究 (2013年7月4日)